合気道、教育について内田樹先生が語っています。

 長文ですがご興味がおありの方はどうぞ!

 僕が合気道という武道を通じて教えているのは、「生きる知恵と力」をどう伸ばすかということです。
武道では強弱勝敗巧拙を論じま
せん。他者との相対的優劣は問題じゃないんです。競争相手がいるとしたら、それは「昨日の自分」です。
昨日の自分よりどれくらい
感覚が敏感になったか、どれくらい動きが冴えたか、どれくらい判断力が的確になったか、そういうところを自己点検することが稽古の目的であって、同門の誰より技が巧いとか、動きが速いとかいうことには何の意味もないのです。

競争というのはルールがあって、審判がいて、勝敗や記録のつけ方が決まっている競争です。武道が設定している状況は、生き死にです。
どこで、何が起きても生き延びる。それが武道修業の目的です。武道的な意味での「敵」とは、自分の生きる力を殺ぐものすべてがカウントされる。
天変地異も、病気も老化も家庭不和も仕事上のトラブルも、全
部そうです。
どれも自分の心身のパフォーマンスを損なう。
それが
もたらすネガティブな影響をどう抑止するか。それが武道的な課題なんです。

武道はもともと戦技であって、競技じゃない。
戦場に放り込まれたときに、「こんな不利なルールではゲームはできない」とか「こんな弱兵では戦えないから精兵と取り替えてくれ」いうような要請はできません。手持ちの資源でやりくりするしかない。その弱兵たちの才能をどうやって開花させ、能力を最大化させるか、それを考える。それを自分自身の心身について行うわけです。
おのれの潜在可能性を爆発的に開花させるためには、何をすればよいのか。
やればわかりますけれど、才能開発の最大のトリガーは「相互扶助」なんです。

  「自分が守らなければならないものがいる」人間は強い。自分の能力の受益者が自分ひとりである人間は弱い。
遭難した場合でも、家で妻子が待っているという人は、独身者よりも生存確率が高いことが知られています。そういうものなんです。
集団もそうです。
メンバーの中の「弱い個体」を守るために制度設
計されている集団は強い。「強者連合」集団は強いように思えますが、メンバー資格のない「弱い個体」を摘発して、それを叩き出す作業に夢中になっているうちに、集団そのものが痩せ細ってしまう

競争的な発想をすると、修業の目的は地球上の70億人全員を倒してチャンピオンになるということになる。
すると、論理的には自分以外の70億ができるだけ弱くて、愚鈍で、無能であることを願うようになる。できれば、この世界にいるのが自分ひとりで、あとは全部消えてしまうことを願うようになる。
武道の目的はそれとは逆です。地上の70億人全員が武道の達人になることが目標だからです。
すべての人間がおのれの潜在可能性を開花させ、心身の能力を最大化した状態の世界はどれほど愉快で住みやすいか。
競争的なマインドの人は、つねにどうやったら周りの人間の心身の発達を阻害し、能力を下げることができるかを考える。
閉鎖集団内部での相対的優劣を競う限り、自分の能力を高めることと、他人の能力を引き下げることは同義ですから。
日本の場合は、
競争原理によって、これにみごとに成功した。
その結果、全員が全
員の足をひっぱるような情けない社会ができてしまった。
競争は国を滅ぼす。僕はそう考えています。

-私たちが発信しているEnRichもそのことを考えています。
ところで、道場では子供たちにそのことを浸透させるためにどのような教え方をされるのですか?

僕は中学生以上しか担当してませんが、門人たちはそれぞれのレベルで解釈して自分なりに消化して教えてくれてます。
合気道に入門する人は対立的な競技武道と肌が合わない人が多いんです。
階層社会・個人主義のヨーロッパでも合気道人口は多いです
ね。
他人との競争や、自己主張が苦手な人は、どこの国にも一定数
いるんです。

  例えば、フランスでは自分の意見をきっぱり述べないとまるで存在しないような扱いを受けるけれども、実際には自己主張が苦手なフランス人もいるわけです。
そういう人たちは競争しないでもいい身
体技法がないかなと思っている。
そして、合気道に出会うと「ああ
、これがやりたかった」というふうになる。
合気道はもう世界で1
00カ国近くに広まってます。
フランス、アメリカ、ロシア、中国
など、個人主義的な傾向の強いところの方がむしろ修業者が多い。
逆に、人心が穏やかなアジアの仏教国にあまり拡がらないのは、そういう種類の欲求不満がないからかもしれないですね。

僕は正直に言うと、競技武道は本来の意味での武道ではないと思っているんです。
だから、武道必修化にもずっと反対でした。
あれは武道のことを何も知らない人たちが思いついたことです。
武道をやると礼儀正しくなるとか、愛国心が涵養されるというのは、あまりにも武道をバカにした物言いです。

  武道はそれ自体が目的であって、社会的訓練の道具じゃない。
子どもをそんなに礼儀正しく育てたいなら「礼儀」という教科を立てて必修化すればいい。
愛国心を扶植したいなら「愛国心」という科目をつくればいい。
教師に向かって「おまえは愛国心が足りない非国民だ」と怒鳴りつけるような子どもに5をつけてやればいいでしょう。

  今の日本で「愛国心」と呼ばれているものは、同胞に対して非寛容であることです。「ほんとうの日本人」の頭数をいかにして減らすかに夢中になっている人間じゃなければ「非国民」とか「売国奴」などという言葉は口にしません。
彼らはべつに国を愛しているわけ
じゃない。誰かに「非国民」と言われるのが怖いので、自分が言う側に回ろうとしているだけです。
本来の愛国心は恐怖や恫喝と最も
無縁なものです。

でも、日本人は無垢な愛国心というものをもう持てなくなっています。
前の戦争であまりにひどい負け方をしたから。
ただ戦争に負けただけならこれほどまで卑屈にはならない。
でも、
あまりにひどい負け方をした。
国運をかけた戦争で、何百万人も死
んだ後に、戦争指導部が驚くほど愚劣で無能な人間たちによって占められていたことを知らされた。救いがないんです。

 ただの敗戦なら、「臥薪嘗胆」で耐えられる。
でも、これほどみじ
めな敗戦では「次は勝つぞ」という言葉がどこからも出てこない。日本人は敗戦で何か大きなものをなくした。「誇り」というものを根こそぎ失ったんです。

―今「誇り」という概念を子供たちに教えるのはすごく難しい気がします。
国に対しても、自分の属する母集団に対しても。先生が合
気道で教えていらっしゃる「誇り」とはどういうものですか。

僕が武道を始めたのは1975年ですが、今思うと、一番大きな理由はそれだと思います。敗戦国に生まれた子どもとして、二言目には「日本は戦争に負けたから」と言われて育ってきた。でも、何か世界に誇れるものがなければ子どもだってやっていけない。そのときに発見したのが武道です。
それが僕にとっては国民的な矜持の支
えだった。
その事情は今でも変わりません。

  経済力があっても軍事力があっても、それだけでは国民的な誇りは持てません。
誇れるのは伝統的な文化だけなんです。それだけは金
で買えないし、暴力でも奪えない。
それが日本にはある。それだけが国民的な誇りの足場なんです。
なのに、人々は金や軍事力で誇りを手に入れようとする。

  伝統文化が存在しない国で、どうやって自国への誇りを保つことができなすか。
シンガポールの最大の懸念は伝統文化がないことです。
ビジネスチ
ャンスがあるということだけでは愛国心は基礎づけられない。金で人を引きつけているなら、もし他にもっと条件のいい国が出てくれば、国民がそちらに流れ出てゆくことを止められない。

 ブータンでは「国民総幸福量」ということが言われましたけれど、あの国で何が国民の幸福を支えているかというと、他の国にはない文化なんです。貨幣の量じゃない。

―明日、私たちにが何をできるかという卑近な事例で説明していただくとしたら?

何ができるんでしょうかね。とにかく僕は顔が見えて声が聞こえて手が届く範囲からしか始められない。だから、道場を作った。
最年少は4歳から入ってきます。小さい頃からやっていると、やっぱり佇まいが違いますね。昔の日本の少年らしさというか。
姿勢と
か歩き方とか礼のしかたとかが。

今の子どもたちのやっているだら
だらと崩れた身体運用も一つの「型」であって、あれはあれなりに社会的な規制に従っているわけで、別に楽なわけじゃない。
だから
、武道の道場で気分のいい身体の使い方を知ってしまうと、もうああいうだらだらした身体の使い方ができなくなる。

―佇まいというのはとても美しい日本語ですが、メディアで目にしなくなりました。その美しさは見える範囲内でしか伝えるのが難しいですね。

言葉で伝えるものじゃありませんから、日常の起居を通じて、礼儀正しくしている人をみて身体的に感化されるしかない。
「礼儀正しくしろ」って言ってもダメなんです。
現に礼儀正しい人
がかたわらにいれば、自然に呼吸するように礼儀正しさが身について行く。

道場というのはそういう空間なんです。

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